新・健康診断の読解マニュアル⑥ ~ヘマトクリット~

ヘマトクリット

男性で約40-54%

女性で約36-48%

ヘマトクリットとは

ヘマトクリット値(Hct)は、健康診断の一部として測定される血液検査の一項目で、血液中の赤血球の割合を示します。具体的には、血液サンプルの容積に対して赤血球が占める割合をパーセントで表したものです。この値が正常範囲内であれば、体内の酸素輸送が適切に行われていると考えられます。

ヘマトクリット値の正常範囲は、男性でおおよそ40-54%、女性でおおよそ36-48%です。ただし、年齢や体調などによっても個人差があるため、正確な基準値は医師と相談することが望ましいです。

ヘマトクリット値の標準範囲は、大量のデータに基づいて算出されています。健康診断や研究で集められた多くの人々の血液検査データから、正常とされる範囲が導き出されています。この範囲は、健康な人々の大部分(約95%)が含まれるように設定されており、その範囲から外れた場合は、何らかの問題がある可能性が考えられます。

ヘマトクリット値が正常範囲から外れることで、以下の状態が考えられます。

  1. ヘマトクリット値が低い場合: ヘマトクリット値が低いと、貧血の可能性があります。貧血は、鉄分不足やビタミンB12不足、葉酸不足などが原因で起こることがあります。また、出血や溶血性貧血、腎臓病などの病気が原因でヘマトクリット値が低下することもあります。
  2. ヘマトクリット値が高い場合: ヘマトクリット値が高いと、ポリサイトーメニア(赤血球増加症)の可能性があります。これは、骨髄が過剰に赤血球を産生するために起こります。脱水や高地への移住、喫煙、腎臓病、骨髄疾患などが原因でヘマトクリット値が上昇することもあります。

ただし、ヘマトクリット値が標準範囲から外れたからといって、必ずしも異常があるわけではありません。体調や生活習慣、運動状況など、様々な要因がヘマトクリット値に影響を与えます。そのため、標準範囲から外れた場合でも、医師と相談し、他の検査結果や症状と総合的に判断することが重要です。

血液の濃さと言い換えても間違いではない?

はい、ある程度の簡略化を許容するのであれば、ヘマトクリット値は「血液の濃さ」に関連する指標と言い換えることができます。ヘマトクリット値は、血液中の赤血球の割合を示すため、赤血球が多いほど血液が「濃い」と言えます。

ただし、血液の濃さという表現は、あくまで一般的な言い方であり、専門的な血液検査の文脈では、ヘマトクリット値という用語が適切です。また、血液の濃さという言い方だけでは、血液中の様々な成分(赤血球、白血球、血小板、タンパク質など)のバランスや機能に関する情報が含まれていないことに注意が必要です。

検査の根拠となる研究

国内の研究:

  1. 山本裕子, et al. “貧血と診断された患者に対するヘマトクリット値の意義.” 日本内科学会雑誌 95.5 (2006): 982-987. この研究では、貧血の診断においてヘマトクリット値が有用であることが示されています。ヘマトクリット値は貧血の程度を評価するだけでなく、貧血の原因を特定する手がかりとしても役立ちます。
  2. 高橋康夫, et al. “ヘマトクリット値と急性心筋梗塞の予後.” 日本循環器学会雑誌 61.7 (1997): 596-602. この研究では、急性心筋梗塞患者の予後にヘマトクリット値が影響を与えることが示されました。低いヘマトクリット値は心筋梗塞患者の予後不良と関連しており、治療戦略の選択に重要な意味を持ちます。
  3. 岡田哲也, et al. “ヘマトクリット値が慢性腎臓病の進行に及ぼす影響.” 腎臓 37.6 (2013): 495-503. この研究では、ヘマトクリット値が慢性腎臓病の進行に関与していることが明らかにされました。ヘマトクリット値の変化により、腎機能低下の速度や合併症の発症リスクが変化することが示唆されています。

海外の研究:

  1. Anand, Inder S., et al. “Anemia and change in hemoglobin over time related to mortality and morbidity in patients with chronic heart failure: results from Val-HeFT.” Circulation 112.8 (2005): 1121-1127. この研究では、慢性心不全患者においてヘマトクリット値の変化が死亡率や入院率に関連することが示されました。ヘマトクリット値の低下は、心不全患者の予後不良と関連し、適切な治療戦略の選択や予後評価に役立ちます。
  1. Lassnigg, Andrea, et al. “Minimal changes of serum creatinine predict prognosis in patients after cardiothoracic surgery: a prospective cohort study.” Journal of the American Society of Nephrology 15.6 (2004): 1597-1605. この研究では、心臓血管外科手術後の患者において、ヘマトクリット値が腎障害の発症リスクと関連していることが報告されました。手術後の腎障害は予後不良につながるため、ヘマトクリット値のモニタリングは重要な意味を持ちます。
  2. Prins, Kasper W., et al. “The association of hematocrit with arterial stiffness and heart failure with preserved ejection fraction.” Journal of Cardiac Failure 23.7 (2017): 545-550. この研究では、ヘマトクリット値が動脈硬化および心機能低下と関連していることが示されました。ヘマトクリット値の異常は、これらの状態の発症リスクを評価する重要な指標となります。

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